弧山SOLVER事務所。
その一番奥の机には、いつもタバコをくわえた男が座っている。
彼の名前は弧山 智暁。この事務所の所長である。
元御山研究所の研究員として、最先端技術の特に先で活躍をしていたものの、思想的な問題からその研究所を辞退。今ではこんな街角のビルでその頭脳を自らの事務所の発展に役立てている。
と、事務所のドアが開き、ビラ配りに行っていた影夜が顔を出した。
「先生。やっぱビラくらいじゃ反応薄いぜー、って」
どうもビラを配り終えてきたらしい彼は、報告の途中でいきなり硬直した。
そして、片手で頭を抱える仕草をして、ため息混じりに聞いてくる。 「なぁ」
「んー?」
とりあえず、先を促す声。智暁の声は、いつもどおりの色彩を帯びていた。
「なんでアンタは人がこの風の強い中ビラ配りでもしてきたってのに、事務所でのうのうとゲームなんぞやっていらっしゃいますか?」
智暁は、ゲームの画面から目を離さずに、
「まぁ、暇だし」
「うわ。暇とか言いやがったこいつ。だったら自分もビラ配りでもなんでもしろよ」
「そんな広い範囲じゃないし、二人は要らないでしょー」
「ん…」
それは確かに、そうなのだが。
影夜はどうしても納得いかず、智暁をじっと睨みつける。
どれくらい睨み続けただろう。たっぷり 5 分ほどじっとりと睨みつけられたところで、智暁はようやくそれまで一度も目を離さなかったゲームの画面から目を離した。
そして、当然のように聞いてきた。
「エーヤもやる?」
「いや、しねーけど」
影夜はこの事務所に仕事がないわけが少し分かった気がした。
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