浜枝 弘一。事務所の副所長である。
 この事務所の創設メンバーのひとりで、SOLVERの原型を智暁と二人で作り上げた人物でもある。というか、創設メンバーは智暁と弘一のふたりだけである。
 今日も彼は事務所に出勤する――



 この世のものとは思えないような轟音が響いた。どれくらいかというと、事務所の窓ガラスが微妙にカタカタ震えるくらいだ。もはや爆音と呼んでも差し支えない。
 しかし、そんな爆音を耳にしても、弧山SOLVER事務所の面々は落ち着いたものだった。所内でも一番の小心者の会計も、黙々と帳簿を書き込んでいる。
 そして、次の瞬間。
 本当の爆発にすら匹敵するような音が轟き、派手に事務所が揺れた。机の上の書類やらなんやらが、ばさばさと床に落ちる。
 ……それでも、所内は平和なものだった。各々、落ちたものを拾って元の位置に戻す。
 なんというか――慣れている感じだった。
 と、事務所のドアが開き、一人の男が姿を現した。
 長身の男は、入るなり一言、
「よお皆。今日も張り切って仕事しようぜ!」
 とだけ言うと、そのままずかずかと智暁の前まで来た。
「すまん、遅刻した!」
 智暁は呼んでいた本から目を離し、男を一瞥だけして視線を戻した。
「まー昨日は遅くまでやってもらったからいーけど。減給な」
「おいおい昨日は朝の5時まで仕事を探してたんだぜ? 大体いくら粘ったってうちの広告に引っかかるやつなんてそうそういねーのに。めちゃくちゃ徒労って感じだ」
「とりあえず示しつけるためにちょこっと引くだけだから」
(聞こえてるって)
 所内全員が心の中で指摘する。
 弘一は少し不満そうながらも、なんとなく納得させられてしまっている感じだった。
「それよりも」
「ん?」
 突然の口調の切り替え。
 智暁が真面目な話をするときの合図だ。この口調のときだけは、ちゃんと聞いておかなければいけない。あとが怖い。
「いい加減あのスクーターはどうにかならないのか?」
「何? 俺のZX? ああゼッペケと呼んだら許さないのであしからず」
 どうでもいいことだった。
「ここのところ、近隣住民からのお前のケダモノスクーターの騒音に対する抗議が強くなっている」
「バカ、お前、あのエグゾーストの素晴らしさっつーか最高さが分からないのかよ!? いいか、(以下えんえんとホンダ賛美と自分のカスタムの巧妙さについて説明)分かったか!?」
 智暁は視線を手元の本に落としたまま答えた。
「ああ分かった。明日から歩いて通えよ。ここから500mも離れてないだろ」
「全然かけらも聞いてないご様子!?」

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