所内イチの小心者。
 動いて喋ってビビる演算処理装置。
 コンピュータ並みの処理スピードと、ノミもびっくりの心臓の持ち主にして、弧山SOLVER事務所会計兼マスコットキャラ。
 身長 161cm! 体重 45kg! 握力、なんと左右とも 20kg未満!
「そう! 奴こそが東 光その人だ!」
「えぇっ!?」
 弘一が突然挙げた声に、光は素っ頓狂な声を上げる。
「な、なにがですか?」
 恐る恐る、といったていで尋ねる光。
 弘一は、自分のデスクに座って、大量の紙になにやら色々書きなぐっていた。
「いやな、いま俺的に所員のキャッチっつーか宣伝文句? みてーなのを考えてるわけよ」
「は、はぁ」
「で、なんかみつっちゃんは今ひとつインパクトが足りない気がしてな」
 ばっ、と、手の中の紙を高々と掲げる弘一。
「昔のヒーローみたくやってみました!」
 なぜか誇らしげ。
「うぅ。なんか純粋な誉め言葉がひとつもない……」
 弘一の考えた自分の宣伝を見て、ちょっと涙ぐんだりする。
「ばか、おめー、そこがポイントなんじゃねーか。」
「別のにして下さいよぉ。なんで握力とか出すんですかー?」
 涙目で懇願する光。
「いやだって成人男性で握力20kg未満だぜ!? こんな稀有な情報、載せなくてどうするよ!?」
「だ、だから今頑張ってるんですよ? なんとか右は20kgまで行ったのに……」
「今すぐ落とせ」  弘一は唐突に真顔になる。額に汗まで浮かべて続ける。
「握力が20を超えるなんて、そんなんお前のアイデンティティーが喪失される。落とせ。今すぐ。なんなら俺がちょっとポッキリやってもいいぞ」
「ひ、ひどい……」
 本気で泣き出しそうになる。
 と、ちょうどそのとき直葉が事務所の中に入ってきた。
「所長ー。書類、提出してきましたー」
「あーありがとー。自分の仕事に戻っていーよー」
「はーい」
 直葉の席は光の席のすぐ隣だ。当然ながら、彼女はふたりの様子に気付いた。
「……なにしてるんですか? 副所長」
 いきなり詰問口調である。
「いやな、光に自分の宣伝文句の了承をとろうと思って」
 直葉は二人を順々に見て、
「光くん困ってますけど。」
「はっはっは。こいつはなんにでも困るからなぁ」
「…………。」
 直葉は黙って弘一の手の中の書類をひったくった。
 一通り目を通して、めまいがしたように手を額にやる。
「……なんですか? これ。」
「我が事務所が誇る、東 光所員のスペックだ。光を本人の性格とはギャップのあるヒーローのように書くことで」
「やり直し」
 長くなりそうな話をさえぎって、ぴしゃり、と言ってのける。
「……最近思うんだが、なんか俺お前より下になってないか?」
「細かいことは気にしない」
 全く話を聞いてくれない直葉に、弘一はすごすごと自分の机に戻った。
「ったく、副所長はすぐ光くんで遊ぶんだから。大丈夫だった?」
 光は弧山事務所の中では、直葉を除いて唯一と言っていいほどまともに仕事をする人間だ。そのためか、直葉も光には割と優しい。
「え……いや、あの、はい……」
「副所長とか所長とか、あとエーヤとか、ほんとに何も考えてないんだから。仕事中にサボったり変なことしてたら、ちゃんと言わないと」
「あ、あの……でも」
 光が必死に何かを言おうとする。
 分からなくもない。いくら本人たちはふざけであっても、光のいいところを引き出そうとか、そういう部分がないわけでもないのだ。
 光は必死に言葉をつなぐ。
「あの宣伝文句、ち、ちょっと、かっこよかったかな、とか」
「あのね。」
 直葉は頭を抱えた。やっぱここの連中、みんななんか変だ。

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