弧山SOLVER事務所の仕事で、最も多い仕事は、クリーン活動である。
 ……要するに、地域のお掃除のお手伝いだ。

「暑いぞ。どうにかしてくれ」
 藤崎 影夜はその場にへたり込みながら、道の向こうでせっせとゴミ広いをしている所員に声をかけた。
「サボんないでよ! わたしだって暑いしきついんだから!」
 大声で怒鳴り返しながら、その所員は路肩の茂みの中から空き缶を拾うと、左手に持つゴミ袋の中に入れた。
 所員の名前は山田 希美(やまだ くみ)という。ただ、家の近所に「クミ」という名前のおばさんが住んでいて、昔からよく間違われたとかで、名前の文字を逆にした「ミキ」という呼び名を好んでいる。
「大体、お前が持ってくる仕事って、なんでこんな地味にきつくて、やること自体も地味なのが多いんだよ」
「滅多に仕事を取れない上、たまに持ってきたと思ったら毎回厄介事に発展するエーヤに言われたくない! 一応わたし、営業成績トップだし」
 というか、弧山SOLVER事務所の普段の仕事は、大抵この希美が持ってくることが多かった。その内訳は、今回のようなクリーン活動の手伝い、ペット探し、町内会の手伝い、ビルやイベント会場の警備などだ。たまにとんでもない依頼を持ってくることもあるが、それを抜かせば、直葉、光とともに弧山事務所を支える重要なメンバーである。
「ていうか、二人でこの辺り全域のゴミ拾いを三日で、ってのがそもそも無理だ。広さ的にどのくらいだ。小さい村なら入るぞ、マジで」
「だから直葉が言ってたじゃない。頭を使えって」
 希美はルートを考え、滅多に人が通らない道をルートから外すことで頭を使っている。対して影夜と言えば、片っ端から拾っていこうとして、初日にほとんど進まずに終わった。そのため、今日から希美と一緒にルート回りということになった。
「本当ならわたしとエーヤで別のルート回ったほうが効率いいんだけど、エーヤがそんなんだからそれもできないんだよ。ちゃんとやってよ!」
 いい加減、希美もキレ気味だ。
「わかった。でもミキ、ゴミは分別しておいた方がいいぞ。さっきから見てると、燃えるゴミも燃えないゴミも同じ袋に放り込んでる」
「……あ。」
 左手にぶら下げたゴミ袋の中の混沌っぷりを見て、希美が硬直する。
「ずっと思ってたんだが、言うの面倒くさかった。許せ」
「もっと早く言ってよ……」
 がっくりと肩を落とし、ゴミの分別を始める希美。
 事務所の中では割としっかりしたほうだが、何かをやると必ず何かひとつはミスをする。
 それが山田 希美だった。

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