一握の思い出
思い出にすがる生き方も悪くないんじゃない?






どこで間違ってこうなってしまったのだろう…?


トシユキは数人の若者に袋叩きにあいながら、心はどこか冷静にそんなことを考えていた。


自分は、ついこの前まで一流と呼べる企業で係長をやっていた。


入社5年目にして昇進というのは、その企業では特に珍しいらしく、周りからも騒がれたものだった。


それが今はどうだろう。

ホームレスになり、2月の寒空の下、小銭目当ての若者たちに袋叩きにあっている。彼らの目当ては、トシユキが大事に懐に抱えているビン。

今日一日の彼の稼ぎだった。

これを盗られれば、今日は食事抜きで過ごさなければならない。この寒さの中、暖かい食べ物のひとつも買えないというのはさすがに辛い。トシユキは必死だった。必死でビンを守った。

だが、バットで頭を殴られてしまうと、意識が跳ぶのはそう遠くではなかった。

気絶したトシユキの体を、バットでひっくり返し、汚れたものを触る手つきで若者たちはビンを奪い取った。その場で叩き割り、中身の小銭を数えて、笑いながら立ち去っていく…


トシユキが意識を取り戻したのは、その後すぐだった。冬の寒さは、気絶することさえ許してはくれない。

痛む体を何とか起こし、周りを見渡すと、叩き割られたビンが目に入って、どうしようもない感情が湧き出てきた。その感情が、目からこぼれる。涙が流れる。

トシユキは、空を見上げた。寒空というのは、確か色のことを言っているわけではなかったはずなのに。その空は、やけに寒々しい色をしている。

死んだほうがいいのかもしれない。

そうすれば楽だ。このさき生きていったところで何があるのだろう。

神はいない。

救いはない。

それは、彼がこの生活で心から痛感したことだ。人間は平等じゃない。昔聞いたその類のことは、すべて、まやかしだった。


ふと、自分の右手を見る。

右手。自分のやってきたことが、そこに映し出されるような感覚。

思い出が。

かつて自分にかけられた声が。自分が何かを達成したときの喜びが。そして、あのことが。

思い出されて。



「まだいけるさ」


トシユキは、ゆっくり体を起こすと、体が痛むのも構わずに伸びをした。

とりあえず、今日の寝床を探そう。しっかり寝なければ。

明日も早い。








▼あとがき▼

あるキーワードを元に書いてみたSSです。まぁ大した仕上がりではないですけど、読んでみてください。

FOEは文章を書くとき、分かりやすさというものを結構考えるんですが、それと同じくらい、ちょっとひねった分かりにくい表現を使います。

本当はもっと絶対的に分かりやすかったり、ひたすら暗喩と婉曲表現を使ったり、どっちかに寄ったほうがいいんじゃないかな、と、時々思うんですが。

あと俺がこだわるのは発音したときのリズムですね。自分の中でその文章を読むときのリズムってのがありまして、それどおりに読まないと伝わらないこともあると思うんですよ。そのリズムを作り出すのは、まぁこの「、」とか「。」とか、あるいは「…」とかです。これを使って俺の思ったとおりのリズムを出せているか本当に不安ですが、まぁともかく俺の文章を読むときには頭のなかでそういうことも考えてくださると嬉しいな☆ きゃっ☆(最近自分を捨てることがうまくなりました)



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